「若者のになう『地球環境と世界市民』」
谷口研究室における環境教育の実践活動記録

甲南大学文学部人間科学科・研究生 渡辺りわ

1.はじめに

 わたしたち谷口ゼミナールでは、自然環境・社会環境・心の環境の3つのカテゴリーに分け、それぞれの環境について研究室活動を展開しています。自然環境の視点のアプローチとしては、奇形ザル問題、社会環境のアプローチとして公害問題である水俣病をとりあげ、そして心の環境からのアプローチとして「環境倫理と環境教育」をゼミテーマとしています。
 今日は、従来行なってきた谷口研究室の活動報告として、自然環境、社会環境、心の環境の視点について、スライドを使用しながら活動報告をしたのち、今年度の主な取り組みであった、環境問題解決への第一歩として行なってきた甲南大学・広野グランド・野外実践施設における有機農業の取り組み及び生態系および自然復元の試みであるビオトープの作業工程、観察記録の報告をしたいと思います。

2.谷口研究室・活動報告-自然・社会・心の環境の視点から-

 第一に、自然環境の問題においては、残留農薬(ディルドリン、ヘプタクロールなど)が原因で発生する奇形ザル問題を淡路島モンキーセンターを拠点に15年間追ってきました。高度経済成長期にあたる1970年代以降、小豆島(1986)臥牛山(1991)、宮島(1991)など全国各地の餌付けされたニホンザルの群れに多数の奇形がみられるようになりました。奇形は特にサルの手足に見られ(四肢奇形)[スライド・]、その種類としては、ミラーフット(片足に両足の指の発生)、合指、屈指、短指、欠指、単指、裂手・裂足などがあり、また最近では重度の花粉症におかされたサルも増加しています。奇形ザルや奇形ザルを産みやすい母ザルの体内からは、健常であるサルのおよそ数倍から数十倍の残留農薬(有機塩素化合物)が検出されています。そのため、奇形ザル発生の原因としては、遺伝的要因よりも環境的要因が重要視されています。
 第二に、社会環境の問題においては、1988年8月、1992年8月に水俣市を訪れ、水俣病の歴史及びについて学んできました。
 1988年、チッソ水俣工場の全景の記録です[スライド・]。水銀を垂れ流した排水溝の記録です[スライド・]。この排水溝より有機水銀が流れ出、水俣病が生じることになりました。
 また、1988年に水俣を訪れたとき、ヘドロ埋め立て地であったところが[スライド・]、1992年には公園となり[スライド・]、整備されているのを見ることができ、今日、水俣病が風化しつつあることを感じることができます。
 1歳の時に水俣病に発病した田中さんにゼミ生が紙すきを教えってもらったのですが、神経系が冒されているため、寒い中でも紙すきをし続け、とめなければ倒れるまでしているそうです。
 そして第三に、心の環境の問題として、地球環境問題の解決のために「環境倫理と環境教育」をゼミテーマとしています。2度にわたる国際シンポジウム(1996年12月14日:国際シンポジウム'96「環境倫理と環境教育 -人と自然の共生をめざして-」、1998年3月20〜22日:国際シンポジウム'98「環境倫理と環境教育 -科学技術と人間性をめぐって-」)が開催され、近年のゼミナール海外研修では、中国・タイ・カナダを訪れています。グローバルな視野から環境問題を考えるため、中国・北京大学やタイ・ラジャバト王立大学の学生とともに学生会議をしました[スライド・・・]。また、ローカルな立場からの実践では、広野グランドにて有機農業の取り組みやビオトープ(生物生息圏)の作業工程、観察を行なっています。


農作業(野菜作り・米作り・収穫祭)

甲南大学文学部人間科学科3年次  桔梗祐子

はじめに

 谷口研究室では、ゼミ活動の一環として、甲南大学広野グラウンドでフィールドワークを行っている。1999年度は、野菜作り、米作りなどをおこなった。この活動の目的は、体を動かすことによる自然との一体感と収穫の喜び、食べ物の大切さを身をもって体験することにある。また、このような体験をすることが環境問題の解決方法の一つになるのではないだろうか。

野菜作り

 野菜作りでまず大切なことは、土作りである。土を耕し、堆肥をまき、畝を作る。それから、種をまいたり、苗を植えたりする。馬糞を使っての有機農法で行った。有機農法は、今最も注目されている方法の一つであり、農薬や化学肥料を使わない環境に優しいものである。主に栽培した野菜は、きゅうり・なすび・ピーマン・ししとう・ミニトマト・ハーブなどである。普段は、売っている野菜を買っているため、野菜を作ることが大変だとは思わない。だが、自分たちで野菜を作ってから、無駄にしないでいかに料理を作るかを考えるようになった。エコ・クッキングを心がけるようになったのである。[スライド(1)]

米作り

 研究室では、1990年以来兵庫県の市島町で、米作りを手伝ってきた。その経験を生かし、1999年には、甲南大学広野グラウンドの側の休耕田を借り、もち米作りを行った。広野グラウンドの管理人、藤原さんの指導のもとに籾まき、田ごしらえ、田植え、稲刈り、脱穀を体験した。お米という日本にとってなくてはならない食べ物が、時間と労力をかけて作られているとは、あまりにも身近すぎてなかなか感じないだろう。また、稲穂がたわわに実ったときの感動は、とても大きなものであった。[スライド(2)・スライド(3)]

収穫祭

 12月18日には畑に実った野菜や、自分たちで刈った餅米を元に収穫祭が開かれた。みんなで餅つきをし、つきたての餅を食べたのであった。餅つきをしたことのない人が多かったため右往左往したが、何とかできあがった。一から自分たちで作り上げた餅は絶品であった。また、全てが無農薬で作られているので、安心して口にすることができるのである。あのお餅の味は、一生忘れられないものになるに違いない。[写真(1)・(2)]

終わりに

 自分たちで農作業をすることは、現代の若者にとって、なかなか経験することのできないことである。農作業を経験することは、食べ物を大切にする心だけでなく、自分たちが食べている食べ物についても考えるきっかけとなるだろう。今、食べ物の安全性が問われてきている。環境ホルモンや残留農薬など、さまざまなことが懸念されており、私たちにとって無視できない問題となってきている。私たちの体がいろいろなものに蝕まれてしまうことは、同時に次の未来を担う世代にも影響を与えてしまうのである。安全な食べ物を無駄なく、おいしく調理し、食べることが体の健康だけでなく、心の健康にもつながるのではないだろうか。
 このように、農作業を行うことは、食べ物の大切さや安全性について考えるきっかけをあたえてくれる。また、自然の中体を動かすことにより、心身のリズムを自然のリズムと一体化することができる。そのため心と体がリラックスし、心の環境問題に対しても解決方法の一つとなるのではないだでろうか。

ビオトープに関する我々のゼミの活動を紹介

甲南大学文学部人間科学科3年次  小山真輔

 それにあたり、まずビオトープは何かを紹介しよう。ビオトープとは、bios(生命)とtopos(場所・空間)の合成語で「生命の生息場所・生物生息圏」を意味し、特定の生物群集が生存できる環境を整えた空間である。広い意味では、大自然そのものののことであるが、小・中学校または一般施設で造られている池などのことをビオトープと一般的にいう。森などのビオトープもある。

 ビオトープを造る背景には、「地球環境の危機」、その中でも「種の多様性の減少」が関わっている。つまり、田舎・都市(生活空間)における身近な自然環境の喪失が背景にある。
 ビオトープ(特に学校ビオトープ)は、そうした喪失した身近な自然環境の復元を行うためのものであるといえる。

広野グランドビオトープ池の今までの簡単な経緯

 広野グランドのビオトープ池は1999年7月31日に、谷口文章教授と赤尾整志先生の指導のもと作られた。ひょうたん型の池で、大きさ(土手の部分含む):長さ10m×幅4m×深さ50cm。このビオトープ池づくりには学生・教員など約30名が参加。後、数回の水質調査(pHなど)、生物の調査を行い現在に至る。 [OHP(1)]

ビオトープづくりの手順(広野グランドビオトープ池の場合) [OHP(2)]

1)池の穴を掘る。→スコップだけでは大変なのでパワーショベルを機動させた。
 本来は、児童、生徒、学生がみづからの手で完成させるのが環境教育の一環として
 はふさわしい。 [スライド(1)]
2)掘った池の側面をスコップなどで固めなだらかな斜面に整える。→全員でしっかり
 と固めた。足で踏む、スコップでたたいて固めた。
3)ビニルシートを下に敷き、水漏れ防止のゴムシートを敷く。 [スライド(2)]
4)堤のうえに出たゴムシートの端を土砂で固定する。
5)池の底に小石を入れる。←安定のためや生物が住めるように。
6)水を入れる。→グランドの野球場から水を引く。約2時間かかった。
7)完成 [スライド(3)]


観察の記録

観察1回目(10月10日)
水質 pH6.2以上(この試薬は「酸性雨調査用」の簡易パックテスト(WAK-BCG(共立科学製))なので測定範囲が狭いためこれ以上測定できない)→しかし、中性もしくは弱アルカリ性であることがいえる。
生物 マツモムシ、ゲンゴロウ、アメンボ→寒いので水温がためあまり顔をださない。

マツモムシ(体長1~2cm):茶色ぽい色をしている。夜になると水中をでて羽で飛びまわる性質がある。ゲンゴロウ、タガメなども同様。成虫の幼虫も一生水中で生活するタイプ。 [写真(1)]

観察2回目(11月6日)
水質 pH6.2以上→中性もしくは弱アルカリ性。
生物・・・マツモムシ、ヤゴ→寒いので水温がためあまり顔をださない。

観察3回目(12月4日)
水質・・・pH6.2以上→中性もしくは弱アルカリ性。
生物・・・マツモムシ→寒いので水温が低いためあまり顔をださない。動物プランクトンが発生。

観察4回目(12月18日・19日)
水質・・・pH6.2以上→中性もしくは弱アルカリ性。
生物・・・ウシガエル(大・小)、カゲロウ類の幼虫 [写真(2)]

ビオトープをつくりある程度生態系ができた頃に、そんなに離れすぎないところに新た
なビオトープをつくり生物の移動(ビオトープ・ネットワークの形成)を調べることができる。(生物の移動した道を「コリドア(通路)」という。)これにより、1つのビオトープが点から線へ、線から面へ広がりより大きな広い生態系に組み込まれ、身近な自然環境の復元につながる。

自然の復元と人間の心(精神)

大自然の生態系(外の生態系)と人間の体内の生態系(内の生態系)とのつながりが大切である。外なる環境が復元されていても内なる環境が復元されていないとそれらはつながらず、本当の環境復元とはいえないであろう。心の環境復元に関してもビオトープと同様に点から線、線から面への広がりを経て復元されていく。

 ビオトープの観察を行っていく上で、環境復元のプロセスを文字ではなく、実際に眼で見る(体験する)ことで環境をより身近に感じることができた。また、フィールドワーク(稲作り、ビオトープ造り・観察など)をすることにより心地よい汗をかき心身ともに充実した経験ができた。
 われわれが環境に対してできることは、まず自然を身近なものと感じ、できることから行っていくことであろうと思う。また、心と体の健全な状態を保ち自然とつきあっていくことではないかと思う。


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