あいさつ
国際シンポジウム’98「環境倫理と環境教育
−科学技術と人間性をめぐって-」の成功を祈る

中西 典彦
甲南大学学長

 今回の国際シンポジウム「環境倫理と環境教育」(甲南大学での開催)は2回目であり、前回は「自然との共生をめざして」(1996年12月14日)がテーマでありました。今回のテーマは「科学技術と人間性をめぐって」とありますように、一段と環境倫理と環境教育について、問題の核心に近づいているように思います。
 また昨年12月に「日中共同環境教育シンポジウム・神戸会議」がわが甲南大学で開かれ、中国と日本の「環境問題と環境教育」の実状について双方が理解を深め、大変有益だったと記憶しております。前回の国際シンポジウムでは、環境倫理の共通の枠組を作ることを目指し、その結果、環境倫理の基準としては、従来の「善と悪」の知的判断よりも、「健全か不健全か」というむしろ情操的判断の基準にもとづく具体的な環境教育実践の展開が重視されたと思います。
 今回は、「自然環境における科学技術」と「社会環境における人間性」がシンポジウムの問題点として取りあげられ、これらを総合したものとして、「環境倫理と環境教育をめぐる科学技術と人間性の問題」が討論されることは、私にとって大変興味ある魅力的な計画であります。
 特筆すべきこととして、3月20日にプレ・シンポジウムが“学生会議”として開かれること、そして「未来の地球環境を考える−日本と中国の連携−」というテーマが設定されていることです。中国と日本の将来を担う北京大学および甲南大学を中心とした両国の大学生によるこのシンポジウムには大いに期待しております。
 今度のシンポジウムに際して、この場をかりて私から御礼を申し上げたいと存じます。まず、プレ・シンポジウムでの特別講演(学生会議における)とシンポジウムでの記念講演を快く引き受けて下さった中国・北京大学教授田徳祥(Tian Dexiang)先生、そして、タイ・ラジャバト王立研究所・助教授シリワット・ソンダロトック(Siriwat Soondarotok)先生、カナダ・ヴィクトリア大学教授ナンシー・ターナ(Nancy J. Turner)先生、韓国・カトリック大学教授李時載 (Seejae Lee)先生、オーストラリア・「オーストラリア環境教育誌」編集長リチャード・スミス (Richard Smith) 氏、大阪教育大学教授鈴木善次先生には、シンポジウムの記念講演をよろしくお願い申し上げます。さらに日本環境教育学会よりのメッセージを頂戴します同学会国際交流委員会委員長の阿部治先生、シンポジウムでの報告者として御参加下さった神戸市環境保健研究所部長今井佐金吾氏、パネリスト及びコメンテーターとして御参加下さる関西学院大学教授鳥越皓之先生方に対して心より御礼を申し上げます。そして、本大学からも、5学部すべてからシンポジウムの司会、及び報告者として御参加下さる先生方に御礼申し上げます。申すまでもなく、今回のシンポジウム実行委員会のメンバーの方々、そして学生諸君の協力に対して感謝する次第であります。今回も、実行委員長として谷口文章教授には、並々ならぬお世話をお願いしております。また甲南学園平生太郎基金も僅かながら皆様のお役に立っていると信じております。
 ところで、甲南大学では「21世紀の人間と地球の環境を考える」と題して、平成4年から総合科目として開講され、これが2年間続けられた後、新しく広域副専攻科目として環境の医学や環境の化学など(自然と環境分野)、環境経済学や環境社会学など(社会と環境分野)、および環境人間学や環境文学など(人間と環境分野)の16科目が発展的に独立することになりました。さらに、文学部人間科学科では、人間環境論・・・の専門科目を設け、大学主催の公開講座も1992年・1997年と二度開催し、生涯学習として広く市民に開放しております。
 さて最近の新聞によりますと、日本が南極に昭和基地を設けたのが40年ほど前であり、地球の気候変動を知る貴重なデータとなる約35万年分の氷柱の採取やオゾンホールの観測などが続けられています。太陽からの有害な紫外線を地上に透過させる恐れがあるオゾンホールが見つかったのは80年代になって、昭和基地で最初に観測されたデータがきっかけといわれています。最近 '95・'96年には連続して過去最大規模のオゾンホールが観測されており、環境状況は少しもよくなっていないのです。また雪の結晶が圧縮され氷の層になる時、当時の空気や大気の循環によって運ばれてきた微量物質などが含まれ、氷の中に密封保存されており、これは「大気の化石」といわれるものです。地球環境の歴史を復元できる貴重なタイムカプセルである氷柱の堀削が深さ2500mまで行われているそうです。これにより約35万年前までの地球規模の環境や気候の変化を解明できるといわれます。地球環境の変化はまた南極に住むペンギンの生態にも影響を及ぼしていると考えられています。
 昨年12月には京都で「地球温暖化防止京都会議」が開かれ、温室効果ガスの規制の問題が大きくクローズアップされました。日本は削減率6%、米国7%、EU8%だったと思いますが、ここでも大きな問題は、いわゆる経済大国と発展途上国の具体的な対応の仕方だったようです。「宇宙船地球号」に喩えられた地球は、途上国の協力がなければ先進国もつぶれてしまうわけで、20世紀の初めには地球号には1000人の定員に対して200人位乗っていました。ところが今世紀末には900人位にまで増えています。しかも各人が大きな持ち物を船に持ち込んでいるから、海が荒れたらひっくり返ってしまいそうな方へ向かいつつあるのが現状です。
 「宇宙船地球号」は約60億の地球人を乗せて大宇宙を漂っています。地球号のまわりの宇宙環境も決して楽観は許されません。地球を取りまく大気(オゾン層)の影響や、NOxやCOxに代表されるガス類による汚染などです。また地球号の内部でも、人口は爆発的に増え続け、もうすぐ満員になりそうです。人類が科学技術を駆使して単に自己の幸福のために経済的にぜいたくな暮しを求めるならば、やがてその結果は自分自身にはね返ってくると思わねばなりません。
 暖かく人類や他の生物を育んでいる地球、その大自然の営み、サイクルを狂わせ、地球をやたらに削り、痛めつけて生きようとする人間の限りない欲望は、他の生命体をも痛めつけ、やがて地球号はあのタイタニック号のような運命をたどるかも知れません。経済至上主義への反省と、たった一隻の船(地球号)の中で共に生きるという認識と知恵がなければなりません。
 今回の国際シンポジウムでのテーマ「科学技術と人間性」に示されるように、特に人間の意識改革が最重要課題だと思います。
 今後、このようなシンポジウムが、国内の大学間で、また中国と日本、さらにアジア諸国やヨーロッパの大学間へと拡げられ、大学に集うすべての人々の間に「環境倫理と環境教育」についての認識が深められ、環境問題解決への大きな運動にまで盛り上ることを願うものです。




国際シンポジウム開催にあたって

鈴木 善次
日本環境教育学会事務局長

 今回、甲南大学との共催で「環境倫理と環境教育−科学技術と人間性をめぐって−」が開催されることになりました。前回と同様、甲南大学には財政面をはじめ、会場や人手のご提供などさまざまな面でご尽力いただき、厚くお礼申しあげます。
 昨年12月京都で開催された地球温暖化防止の国際会議の状況からもおわかりのように環境問題の解決には乗り越えなければならない多くの壁があります。しかし、この地球上で同じ時代に生きている私たちが今こそお互いに手を携えてその壁を突き破らなければならないと思います。
 地球温暖化をはじめ、今生じている多くの環境問題の背後には環境にリスクを与えるという欠陥をもつ科学技術を意識的にあるいは無意識的に使用する人々の自己中心的行動が存在します。その改善のためには欠陥技術の改善はもとより、そうした人々の意識の変革が必要です。さまざまな国からの参加を得て開かれる今回のシンポジウムはテーマも含めてそのことを真剣に検討するのにふさわしい場であると考えます。
 人々の意識変革を促し、環境改善にすこしでも役立つことを願って活動している私たちの学会としてもこのシンポジウムの成果に大いに期待しています。




国際シンポジウム'98 開催のあいさつ

谷口文章
国際シンポジウム実行委員長

 前回の国際シンポジウム'96「環境倫理と環境教育−自然との共生をめざして−」(1996年12月14日)をふまえて、今回は「環境倫理と環境教育−科学技術と人間性をめぐって−」を1998年3月20日〜22日におこないます。前回の主旨は、環境倫理の共通の枠組みをつくることであり、その枠組みの中における地域に固有な環境教育の具体化でした。その成果は、環境倫理に関しては善(good)と悪(evil)というハードな知的判断の基準ではなく、健全(sound)か不健全(unsound)かのソフトな情操的判断の基準によるパラダイムであり、環境教育に関してはそのような環境倫理の下で具体的な教育実践を求めるものでした。
 今回は、それをいっそう推しすすめることをめざして、“科学技術と人間性”の問題をとりあげます。地球環境問題の解決のためには、そのような諸問題に関して21世紀の環境倫理の構築と環境教育の実践が必要となります。そのために、日本だけではなく、中国、タイ、韓国、カナダ、オーストラリアから専門家を招聘し、各国の環境倫理と環境教育についての議論を深める予定です。
 今回のシンポジウムの主旨は、“健全か不健全か”という環境倫理の柔軟な共通の枠組の展開と環境教育の地域的具体化を求めて、「自然環境における科学技術」(シンポジウム・)と「社会環境における人間性」(シンポジウム・)の議論をおこない、さらに「環境倫理と環境教育をめぐる科学技術と人間性の問題」(シンポジウム・ 総合討論)を問うことになります。なお、次世代を担う若者たちのプレ・シンポジウム「未来の地球を考える−日本と中国の連携−」も企画しています。
 議論の前提には現実の切実な環境問題が横たわっています。まず環境倫理については、同じ時代と個人的な古典倫理の考え方では、切迫した環境問題は解決の方向を見出すことはできません。なぜなら環境倫理は、時間的に同世代をこえて世代間のモラルが中心となるからです。例えば、現代の世代の享楽や欲望のために放射能や環境ホルモン(外因性内分泌撹乱化学物質)の汚染を無制限におこなってよいはずがありません。また、空間的には、個人をこえて地球全体の公正性が中心となるからです。例えば、個人や私企業のためだけに利益を得るように、無制限に未来世代の地球資源を侵蝕するような不正は許されないはずです。
 このように考えますと、環境倫理は時間的には人類の歴史全体の数千年単位で、また空間的には地球単位で考える必要があります。そのような時間・空間の軸の中で、理性的判断がおよばない情操的判断が必要となるでしょう。感情や感性を軽視する理性的判断の単純な論理をも包み込み、生態系を基盤とした「複雑性」「カオス」「ゆらぎ」「自己組織性」などの現象をも包括的に直覚する情操的道徳判断が要請されます。
 今回のシンポジウムでは、そのような情操的判断にもとづく“健全か不健全か”を基準として、“自然環境における科学技術”と“社会環境における人間性”をテーマに議論を深めていただきたく考えています。現代のような自然環境の破壊は、科学技術によるのか、その進歩はどの程度不健全であったのか、また科学技術によってどのように環境破壊が回復可能なのか、健全な科学技術の駆使はどうすればよいのか、さらに健全な人間性を有する人間がどのように科学技術に対しての主体性を回復するのかを一方で論じ、他方で社会環境の破壊は人間性の不健全さに起因するのか、また健全な人間性の回復にはどうすればよいのかを論じていただくことを希望します。その上で総合討論において、“環境倫理と環境教育をめぐる科学技術と人間性の問題”を浮かび上がらせて、より具体的な地球環境問題の解決へ向けて一歩でも前進できることを期待しております。
 この国際シンポジウム'98では、甲南学園平生太郎科学助成金・甲南大学総合研究所および日本環境教育学会の援助があったことを記しておきたく思います。



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