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わがメーリング・リストからの引用 (10)



R,クラーク米国元司法長官の国連安保理宛書簡の日本語訳 /  (2003.01.20)



R.クラーク氏 国連安保理への公開書簡本文日本語訳 (下) 【Ramsey Clark Open Letter To UN Security Council】 2002年9月20日 3.イラクではなく、アメリカこそが国連の独立と目的への強 大の脅威である イラクは戦争を正当化する脅威だというブッシュ大統領の主張 はまやかしである。 イラクの軍事力の80%が91年に破壊されたことは国防総省 が明らかにしている。 大量破壊兵器を作るための材料・設備も、国連の8年以上にわ たる査察で90%が破壊された。イラクは、1990年には、 近隣諸国に比べて強大だった。今では、弱い国である。イラク で生まれる赤ん坊の4人に1人が、体重2キロに満たず、短命で 、病弱で、正常に発育できないことは目に見えている。198 9年には、2キロ以下で生まれてくる新生児といえば、20人 に1人もいなかった。 かりにイラクが平和の脅威になるとしても、それは遠い将来の 、他のどんな国や集団に比べても僅かな可能性でしかないので 、それに対して暴力的な攻撃を加えることは正当化できない。 イラクを攻撃すれば、アメリカとそれを支援した国への報復が 、これからの時代には、はるかに多く起ることだろう。   ジョージ・ブッシュはイラクを国連の権威への脅威だと言いふ らしているが、アメリカが強制した国連による制裁こそが、イ ラク国民の死亡率を上昇させつづけているのである。国連制裁 によるイラク国民の死亡率は、過去12年にわたり、ジェノサ イド級のレベルである。イラクは、自国民へのこんな犯罪をや めてくれるよう、望みのない嘆願をすることしかできない。対 イラク制裁において国連のはたす役割は、国連の誠実性と名誉 を損ない、汚すものである。 それだけに、いま国連がこの戦争に反対することはなおさら重 要なのである。 査察は、制裁を八年も継続する口実として使われ、その間に毎 月何千人ものイラクの子供や老人が死んでいった。イラクは、 91年に解かれるべきだった犯罪的な制裁の被害者である。9. 11のテロの犠牲者1人に対し、500人の割合で、イラクで は人が制裁によって死んできたのだ。   アメリカこそが、国連の権威だけでなく、その独立性や誠実性 、有効性への希望までも脅かしている。アメリカは、自分の好 きなときに、好きな額だけ国連分担金を払う。加盟国の投票を 強制する。事務局の人事を強制する。ユネスコの目的そのもの に18年間反対してきた後に、一時的好意を獲得するために復 帰する。そして、国連査察団にスパイを送り込む。   アメリカは、核兵器とその拡散を統制する条約を拒絶し、生物 兵器協定の施行を可能にする議定書に反対票を投じ、地雷禁止 条約を拒否し、国際刑事裁判所の創設を阻止するべく力を尽く し、開設されてからはその骨抜きを図り、国際労働機関(IL O)の子どもに関する協定の成立を阻み、子どもに戦争を行わ せることを禁止するのにも反対する。アメリカは、戦争を抑え たり制限する努力、環境を守る努力、貧困を減らし健康を守る 努力に、ほとんどすべて反対した。 ジョージ・ブッシュはイラクが過去22年間に行った二度の侵 略を引き合いに出す。 アメリカが過去220年に何十ぺんもアフリカ、アジア、ラテ ンアメリカで他国を侵略、襲撃したこと、ネイティブアメリカ ンその他の国民からフロリダ、テキサス、アリゾナ、ニューメ キシコ、カリフォルニア、プエルトリコなどの土地を力と脅迫 によって永久的に取り上げたことを無視している。 この同じ過去22年間に、アメリカはグレナダ、ニカラグア、 リビア、パナマ、ハイチ、ソマリア、スーダン、イラク、ユー ゴスラヴィア、アフガニスタンを侵略、攻撃する一方、ヨーロ ッパ、アジア、アフリカ、ラテンアメリカで、攻撃と侵略を支 援してきた。 アメリカが、1983年に、1年間の脅迫ののちに小国グレナ ダを侵略、占領して、何百もの民間人を殺し、小さな精神病院 を破壊して、多くの患者を死なせたことを覚えているのは健全 なことである。1986年4月のトリポリおよびベンガジの寝 静まって無防備な都市に対する不意打ちの攻撃では、アメリカ は、何百もの民間人を殺し、外国の大使館4箇所を破損した。 それに、1998年8月にはスーダンの首都ハルツームのアル ・シファ製薬工場に21発ものトマホーク巡航ミサイルを打ち 込み、スーダンの人々が利用できる薬品の製造設備を半分も破 壊した。ウガンダとスーダン南部には、何年もの間、スーダン 政府と闘う軍事勢力を持っていた。湾岸戦争以来、今週も含め てイラクを何百回も爆撃し、その爆撃機にはなんの負傷も損傷 も被らずに、数百人もの人々を殺している。 4.ジョージ・ブッシュはなぜ今イラクを攻撃しなければなら ないと決めたのか 米国あるいはその他のどんな国にとっても、イラクが脅威だと いう合理的根拠はない。イラク攻撃の理由は、ほかに求めなけ ればならない。 テキサス州知事時代に、ジョージ・ブッシュは、百数十人の死 刑囚を処刑させた。 これは、米国で1976年に(1967年以後中断されていた) 死刑が再導入されて以後、どの知事よりも多い[訳注 197 6年に連邦最高裁で死刑が合法とされてから、2000年まで に米国で行われた処刑は約600件]。州知事として、未成年 者や女性、知的障害者や、「外交関係に関するウィーン条約」 の規定(逮捕された場合、自国の外交使節団に通知されなけれ ばならない)にもとづく権利を蹂躙された外国人を処刑するの に示したのと同じ熱意を、いま彼は、イラク「体制転換」に示 している。 米国の連邦最高裁は、精神遅滞者の処刑は、米国憲法に反する 残虐で異常な刑罰であると認めている。ジョージ・ブッシュは 、同じ価値観と強情さで国連に対しても臨んでいるのだ。 彼がイラクに戦争をしかける動機としては、 健全だった経済と財政黒字を何兆ドルもの赤字に変えてしまっ た大統領として支持を挽回すること、 米国の一部特殊権益層に役立つ新世界秩序という、悪夢になる はずの夢を達成すること、 イラクに対するブッシュ家の恨みを晴らすこと、 アラブ民族を一国ずつ弱めていくこと、 イラスム教国を叩いてイラスム勢力を弱らせること、 あるいは中東での米国の支配を強化すること、 イラクの石油を支配下に置いて米国の利権を強め、この地域の 石油に対する支配をさらに徹底して、石油価格を思い通りにす ることなどがあるだろう。 これらのどの目的によるにせよ、イラクに対する攻撃は犯罪で あり、侵略の定義に関する1974年12月14日の国連総会 決議をはじめとする国際条約および国際法の非常に多くに違反 しているのである。 これまでに米国によって行われた体制転換で権力の座に就いた 独裁者は枚挙にいとまがないが、イランのシャー・モハメッド ・レザ・パーレビ、ザイールのモブツ、チリのピノチェトとい ったそれら指導者はいずれも、民主的に選出された政府の長に 取って代わった人々である。 5.中東における大量破壊兵器の脅威を減少させるための理性 的な政策はイスラエルを含むべきである 攻撃のために米国の敵を選択するという国連または米国の政策 は犯罪的であり、憎悪と分離とテロリズムを強めて、戦争につ ながるだけである。米国がイスラエルに対して与えている援助 の国民1人あたりの額は、サハラ以南のアフリカ諸国の国民1 人あたり得られる、あらゆる源泉からの所得総額よりはるかに 多い。米国により強制された経済制裁は、イラク民衆1人あた りの所得を1989年以来75%低下させた。 過去10年間のイスラエル国民1人あたりの所得は、パレスチ ナ人民1人あたりの所得の約12倍である。 イスラエルは、ジョージ・ブッシュの対テロ戦争の宣告を口実 に、パレスチナ民衆に対する数十年来の攻撃を増強して、ヨル ダン川西岸およびガザ地区の都市と町を無差別に破壊し、国際 法と何度もの国連安保理事会および総会の決議に違反して、さ らに多くの土地を奪い取っている。 イスラエルは、米国から得た何百発もの核弾頭の備蓄、何千キ ロもの遠距離からでも正確に発射することが可能な高性能のロ ケットをもち、さらに高性能なロケットその他の兵器を共同開 発する契約を米国との間に結んでいる。 敵対抗争の歴史をもつ地域で、たった一つの国が大量破壊兵器 をたくさん保有することは、核拡散競争と戦争を促進する。国 連は、すべての大量破壊兵器を減らし、取り除くよう行動すべ きであり、そのような兵器およびそれを他国に与える能力の大 半をもっている大国の悪と敵の地域を処罰したいという要求に 従うべきではない。 イスラエルは40年間にわたって、他のどの国よりも多く国連 の決議に違反し、無視してきた。イスラエルのそういう行為は 免責されてきたのである。 安全保障理事会決議違反は、どのような国あるいは民衆に対し てであれ平和時あるいは差し迫った脅威のない時に国連承認に よる攻撃を行うための根拠となってはならないが、安全保障理 事会決議に違反するすべての国に対しては、決議を実施するた め、それに匹敵する努力がなされるべきである。 6.選択肢は戦争か平和かである 国連と米国は、戦争ではなく、平和を追求しなければならない 。イラクに対する攻撃は、世界を、数十年におよぶ暴力の蔓延 へと運命づけるパンドラの箱を開けることになるだろう。平和 は可能であるばかりではない。科学技術によって、この惑星と 自分自身を破壊する人類の能力がいかに高められたかを考えれ ば、平和は不可欠なのである。 もしジョージ・ブッシュが、国連の承認があろうとなかろうと 、イラクを攻撃することが許されるなら、彼は、社会の敵第一 号となるだろう。そして、国連そのものも、無益というよりな お悪い。戦争の終結を目的として創設された機関でありながら 、戦争の共犯者となるだろう。全世界の民衆は、そのとき、戦 争という災厄に終止符を打ちたいと望むなら、国連に代わる何 らかの方法によって、新規まき直しを図らなければならない。 いまは、国連にとって決定的な瞬間である。国連は、強固に、 独立して、憲章と国際法とこの機関の存在理由に対して忠実で いられるだろうか、それとも、我々を無法の世界に引きずり込 む大国の強制に従い、文明の発祥地に対する戦争を容認するこ とになるのだろうか? そんな事態が起こらないようにしていただきたい。 敬具 ラムゼー・クラーク