1月某日
　カフェ〈M〉に行き、長期旅行の挨拶。夕刻、UA便にて友人Ｃと成田発、香港
着。いつものように尖沙咀のＹホテルにチェックイン。機内食がひどかったので
腹が減り、近所の飯屋で呑雲麺。部屋に戻って一度ベッドに入ったものの朝方ま
で寝られず、起き出してメールの処理やら香港ドルの心配やら。明日いきなり
200万の時計を買うか、日曜日の競馬に200万を投入するかで悩んだりなんかし
て、まるでアホ状態。
　結局寝たのは朝の五時、ところがなぜか朝八時には目が醒めてしまい、いやあ
参った参ったの超睡眠不足。それでも福臨門の飲茶にはしっかりオデマシして粽
やら何やら蟹やら。そのまま勢いがついてオーシャンターミナルに行き、フラン
ク・ミューラーとバセロン・コンスタンチンを一遍に買ってしまう。馴染みの店
員だから思いきりマケてくれて、二本で合計HK$142000なり。日本では合計
450万円以上はするだろう。夜は新幹線で大阪まで行き、寿司とエビスビールと
茶碗を蒸し、部屋に戻ってNBA。夢の技術が四日連続Ｓ高で、すでに百万以上の
含み益。頭はもうとっくにぐらぐら状態。
　土曜日だから証券取引所は休み。昨夜はたっぷり寝て朝10時に起き、いつもの
競馬新聞を買ってのんびりと飲茶。地下鉄で上環、ウェスタン・マーケットから
キャットストリートを散歩、ハリウッドロードで中国瀬戸物の露骨なセックス人
形などを買い歩いて中環へ。ランドマークのカフェで休憩してからＣは買物へ、
おれはスターフェリーに乗って部屋に戻る。きょうの買物はHK$5000で済んだ。
夜は明日の競馬予想にたっぷり時間をかける。
　午前中に起きて馴染みのイタリアン・カフェで朝食。場外で馬券を全10レース
分買い、部屋に戻ってテレビ観戦。しかし、きょうはレース数が多いので最初の
４レースはキネラしか買わなかったのが失敗の元。三重彩にしていれば取れた万
馬券を二本も逃してしまう。５レース目はなんと一頭選んだ２番人気のバンカー
がレース直前に退出したため、ヒモ五頭の中から1、2、3着が出ているにもかか
わらずの元返し、つまり最初から馬券は買わなかったことにされてしまったわけ
で、いくら香港競馬のルールとはいえこれにはさすがのおれも頭にきた。最終レ
ースの三重彩でようやく万馬券を取ったがもはや焼石に水というか馬の耳に目薬
というべきか、またもや百数十万円の儲けを逃す結果となった。それでもなおＣ
と待ち合わせてザ・シルクロードへ。しかし幸いなことに先月狙いをつけていた
スナッフボトルはショーウィンドーから消えていて、おまけに店も閉まっていた。
ここで更にただ飾っておくだけで何の役にも立たない小瓶にHK$15000の消費は
いくらなんでもアホ・バブル・イン・ペリアル・サノバ・ビッチなどと呼ばれた
としてもおれにはもうグーのネも出ないぜ。それでも夜はスターフェリーに乗っ
てユンキーにローストグースを食いに行き、今回の香港で初めてまともな料理を
食った気がしたぜ。Ｃ様はブラニクの靴二足と上海タンのレザージャケットでた
いへんご機嫌のご様子でした。
　週が明けてＣ様は朝早いUA便でご帰国。おれは先週毎日Ｓ高を続けていた夢の
技術の株価をチェック、この会社は毎日おれに70万円もくれるとてもいい会社だ。
部屋で昼食後、バスで旺角へ。馴染みの某所にて中国の2002年午歳金貨と銀貨
を計四種類、エドワード7世時代とジョージ6世時代の５セント硬貨、1988年と
1997年のミント・コインセット、95-96年のロイヤル・ホンコン・ジョッキー
クラブの会員章などをゲット、トータルHK5800なり。バスで尖沙咀に戻り、そ
こから名古屋まで歩いて肉うどんを食ったらとても心持ちが良くなる。帰りに近
所のカフエーでカプチイノを口から飲んでいると、どこからともなく愛くるしい
香港妹が混んでいるので相席をしてもいいかと言ってきたのでいいよいいよどう
ぞ座って座ってなどと言いながら30分ほど英語で世間話をし、メールアドレス
の交換などをしてデジカーメで写真を撮らせてもらったら更に心持ちが良くなっ
ちゃって、これでそこいらのトイレかなんかに二人で入っておれの中途半端に屹
立した陰茎を彼女のまるで赤貝のように濡れそぼって汁を垂らしながらびらびら
びらになった陰唇の真ん中辺にある穴にはめ込んで入れたり抜いたりなんかする
と更に心持ちがいいものを。とにかくきょうは早めに部屋に戻って計算だのメモ
だの整理だの着替えだの梱包だのいろいろのことをしなくちゃいけない。なにし
ろおれは明日の朝の便でタイ王国のクルンテープという町に行くのだ。
　午後、TG便にてバンコク、ドンムアン空港に到着。ポケットに100バーツ札が
何枚か入っているのを確認しつつタクシーで常宿Ｐに到着、ひさしぶりのデラッ
クス・ルームにチェックイン。約40日ぶりのバンコクだぜ。インターネットにア
クセスしてみたら、なんと夢の技術はきょうもストップ高、また70万円もらった
ことになる。このぶんだと、フランク・ミューラーとバセロン・コンスタンチン
がタダになりそうだな。夜まで部屋でだらだらし、さっそく一番近い繁華街タニ
ヤーで晩飯を食ってからクラブ〈Ｋ〉、さらに〈Ｓ〉にハシゴして深夜まで。と
ころがその帰り道にちょっとした問題が起こり、部屋に帰ってからそのことに気
づいたから珍しく自分の行動を悔いるも、約30分後に友人Ｎからの電話で問題は
解決。やれやれ助かった。すぐに寝て朝８時半にけたたましい目覚し時計の音で
叩き起こされる。そうそう体験できない夢の技術の連続Ｓ高をライブで体験する
ためだ。大きなリスクを伴いながらの未だ確定していないリターン、つまり架空
の利益が毎日見る見るうちに増大していく過程を眺めるのも面白い。おれのよう
に金銭にはまるで興味のない者でさえ、面白いのだ。ところがなんと、ジャスダ
ックのシステムが朝からダウンしていて取引停止状態になっているではないか。
再開したのは日本時間10時45分で、前場の取引はたったの15分間で終了。それ
でも売り板44枚に対して買い板が299枚と、きょうも圧倒的なＳ高方向に向かっ
ている。いったいどこまで上がるのか。しかし、タイにいる身としては身体にこ
たえる。なにしろ東京市場はこちらでは朝７時から午後１時、起きられねえっつ
ーの。案の定、午後３時に例の「そろそろ掃除させていただきたいんですけどー」
という電話で起こされ、「じゃあ一時間後にお願いね」と答えて急いでPCの電源
を入れ、バナナを食いながらのインターネット。やはり夢の技術はやはりきょう
もＳ高で、１株80万円になっている。きょうも架空の金を70万円もらったこと
になるわけだ。MBK７階のカフェでピザトーストとカプチーノ。東京から電話が
入り、結核病院に隔離されていた頃に書いた『楽しいステレオ写真』(竹書房文庫)
を増刷したいとのこと。なにを今更とは思ったが、もちろん増刷に文句はない。
コイン屋で3000バーツ金貨を3300バーツで買い、一旦部屋に戻ってくつろぐ。
　ああ、やっぱりバンコクはいいなあ、東京や香港みたいな過剰なプレッシャー
がぜんぜんなくて、すごく気楽。夕刻、タイの友人Ｎが遊びに来たので二人で夕
食、クラブＳで飲むことにする。昨夜のトラブルを解決してくれたＹ、Ｎ、Ｎの
妹の三人に感謝し、お礼を渡す。閉店まで飲んでタクシーに三人相乗り、無事に
帰巣。
　朝６時半に起きてインターネット、きょうまで６日間Ｓ高を続けている夢の技
術が気になる。機関が大量の売りを入れたりしたら株価は急落してしまい、毎日
貯め込んだおれの架空資産はあっという間にオシャカになるからだが、それより
も、市場の売買の動きを見ているのがじつに面白い。と思いきや、なんのことは
ない、きょうもたった45分間でＳ高。株価はすでに90万円まできており、もし
明日もＳ高をつければ、来週からはいよいよ一日１株あたり20万円の含み益(お
れの場合７株持っているから一日140万円の利益)が期待できる歴史的な暴騰銘
柄となるわけだ。一部の世間では毎日毎日もっと買えもっと買えとの買い煽りが
目立つが、信用取引なんか一生涯やる気のないおれには、もうこれ以上買い増
す資金なんかない。来週からサムイ島という海とジャングルしかない田舎の海
辺でラリっているだけの生活を一ヶ月以上もしようかという身には、東京の証
券取引などもはやどーでもいいことだ。さあ、おれは今から寝るぞ。ソファで
三時間ほど寝てからM150をがぶりと飲み、タクシーでトラベル・エージェンシ
ーへ行ってホテル代の支払いとコサムイへの往復チケットをゲット。途中のお
寺でタンブンをしてスリウォンまで歩き、冷やしたぬきうどん。ジューススタ
ンドで大好きな〈マンゴーミレニアム〉を飲み、パッポンで強力な眠剤と密輸
品のUSマルボロをゲット、シーロムに出て飲み物などを買い、BTSでMBKに戻
って部屋に入るともうへとへと状態、冷たいコーラとエアコンで身体を冷やす。
香港から続いている連日の株価チェックで疲れてるんだか眠いんだか元気なんだ
かラリッてるんだか腹が減ってるんだかわからない状態。そうこうしているうち
にもう夜の８時半だ。だらだらとソファで寝ていたら飲みに出る元気もなくなり、
部屋でテレビを見ながらサーロイン・ステーキとバニラ・アイスクリームを食っ
てごろごろすることにした。ああ、いい気持ち。まだ12時前だけど、もう寝よ
うかな。とかなんとか言いながら、結局寝たのは午前三時前。チャンネル５で
午前２時過ぎからいい歌謡番組やってるんだ。それに毎日出てくる四人組の女の
歌手がすごく良くってさ、ついつい毎日見ちゃうんだよなあ。タイ文字で曲名と
グループ名が画面に出るんだけど、読めないからCDやVCDも買えない。バカル
ディー・ブリーザーで眠剤を溶かしてベッドに入ったら、途端に強烈な睡魔に
堕ちる。
　朝突然目覚し時計が鳴り、びっくりして飛び起きたら６時半。いそいでパソコ
ンの電源を入れてヤフー・ファイナンスの掲示板を読み、Ｄ証券にアクセスして
みると、まだ昨日の終値が表示されている。おかしいなあと思って時計を見ると、
まだ６時だった。つまりおれは夢の中で５時半に目覚し時計が鳴って飛び起きて
しまったということだ。やはり一生に何度も巡り合えない大儲けのチャンスに動
揺しているのか。しかし、二ヶ月間の旅行ともいえない避寒の旅に出て、毎朝６
時半に起きてパソコンに向かい、なーんだきょうもストップ高かーとか言って布
団にもぐり込み、夕方レセプションからの電話で起こされて飯を食いに行き、一
旦部屋に戻って髭を剃って歯を磨き、タクシーでバンコク唯一のバカ高いクラブ
街で女の子と酒を飲み、午前２時頃帰宅して風呂に入って寝て、また朝の６時半
に起きて10時前にもう一度寝る。こんな生活をしている旅行者がいったいどこに
いるというのだ。まるでアホやんけ。ああ早くコサムイに行きたいなあ。あの綺
麗な空と海を眺めながら特大のガンジャで思い切りリラックスしたいなあ。結局、
夢の技術は週末のきょうも前場のたった45分間、出来高509株であっさりＳ高、
ついに100万円の大台に乗せちゃったもんね。来週からはいよいよ値幅20万円、
この調子なら一日140万円づつ毎日もらえることになるね、たぶん。時計二本分
どころか、今回の二ヶ月間旅行の費用がすべてタダになりそうだ。
　午後１時に目覚まし時計をセットしたのに、起きたのは夜８時。もうどうにも
ならない。インターネットにアクセスするのもやめて髭を剃り、顔を洗って出か
ける。もう24時間以上部屋に籠っていたことになるのだ。その間、レセプション
や友達から何回電話が入ったことか。とにかくスリウォンで飯、メニューを見て
カキフライ定食180バーツに決める。それからパッポンのカトゥーイ系ゴーゴー
バーでカンパリ２杯とラムコーク１杯。顔馴染みのオカマ達が次から次へと挨拶
に来てはコーラを飲んでいく。タニヤーにハシゴして午前１時前には部屋に戻る。
毎日１万バーツ近く使う生活は東京より高くつくではないか。しばらくパソコン
で資料、データ整理をして、スリウォンの屋台で買ってきた焼き鳥を食って午前
４時には寝たが、さすがに連日の睡眠不足は昨日の爆睡で解消されたらしく、朝
７時半には目が醒めてしまう。しかしきょうは週末で東証は休み、べつに何もす
ることはない。することがないと、ついインターネットに繋いでしまうのがやは
り情報中毒というべきかアメリカに洗脳された悪しき世代の癖というべきか。東
京からのメールに返事を書いたり、ヤフーの夢の技術の掲示板を読んだり。気が
つけば午前11時、なんたる滅茶苦茶な生活か。
　またレセプションからの電話で起きる。「一時間後にお願いね」と応えて髭を
剃り、BTSでプロンポンへ。エンポリアムで昼飯、タワーレコードでリー・ペリ
ーとフェズを探すが、きょうはどちらもなかった。しかたなくBTSで直帰、カフ
ェでお茶を飲み一服。CD屋で名前をタイ人の友人にタイ文字で書いてもらった
CH５で毎日深夜に見ている大好きな女性４人グループのVCDを140バーツでゲッ
ト。夜、友人Ｎが来室、数ヶ月ぶりの再会。しばらく爆笑モードに入ってから、
ソイの26に「Roots Reggae」ていうクラブが出来ましたよというのでタクシー
で直行。シャバやらニンジャマンやらをテキトーにかけてくれるちょうどいいDJ
がいて、二階は穴場かも。じゃあぼちぼちソイ・カウボーイにでも行ってみまし
ょうかということになって閉店間際の場末風ゴーゴーバーへ。ステージ上は見事
な売れ残り状態でどうにもならず。ラムもカンパリもないからハイネッケンとシ
ンガポールスリン(笑)で辛抱、アホかおれは。ひたすら女の子のいる店を選ぶＮ、
酒を飲めない奴の考えはよくわからんもんね、わし。それにしてもソイ・カウボ
ーイとはまた数年ぶりだぜ、うはははは。だけどこの程度の店でも、サムイにも
あれば退屈しないのになあ。
　日曜日、午前11時半というベストの時間に起きる。天気はバンコクに来てから
毎日快晴、気温30度前後、快適。友人Ｎが来室してお茶。夜は二人でパッポンの
プーイン系ゴーゴーバーへ。しかしＮは当然の如く素早く消える。タニヤーに挨
拶して部屋に戻り、寝る。
　朝６時に起きてインターネットをチェックしてからパッキング。午後のPG便で
コサムイ着。なんと、前回はスカスカだった常宿が完全にフル。１日だけメナム
のバンガローで寝ることになる。ビーチ上に立っている広くてでかいテラス付き
の三人泊まれる部屋だ。ちょうど満月が水平線から昇ったところ。抜群。それで
もきょうはたまたまコンイタリーの友人Ｐの誕生日で、仲間内だけのディナー。
みんなで夏にオープン予定の〈Ｏクラブ〉で一服。夜半、Ｐのバイクに乗せても
らってバンガローに戻って爆睡に堕ちる。長い長い一日だった。
　午前10時に起きてレストランでカオ・トム。ここには知り合いのコンタイが二
人働いている。11時半にＰが車で迎えに来てくれ、いつもの自分の部屋にチェッ
クイン。ここも当然、目の前は海。ここのファミリーはいまコンピューターとビ
ジネスのことで頭は一杯。アートや音楽や自然のことを考える余裕はないみたい
だ。しかも全室満員、数十人のファランが行ったり来たりしてる。こんなのここ
六、七年で初めてじゃなかろうか。晩飯後、Ｐの家に行って東京から買ってきた
機材・ケーブル類の価格をチェック。ナイの店に行って深夜３時までブルースと
ラムコーク。
　昼まで寝る。気温は日向で33.5度、日陰で29.5度。部屋に電話回線がないので
GSMから東京へかけて夢の技術の株価をチェック。本日ついに十数日間連続のス
トップ高が終り、20万円のストップ安。出来高も900を越えている。これを調整
と見るべきか空売りの浴びせと見るべきか。まあ、どうでもいいけど。フルーツ・
サラダで軽く腹をもたせ、Ｐとバイクでナトンタウンへ。カフェで機材・ケーブ
ル類の清算をし、ミックス・フルーツ・シェイクとマーブルケーキ。スーパーマ
ーケットと市場で日常用品とバナナとロン・パスカスを一瓶。東京から電話があ
り、AMEXがおれに連絡を取りたがっているとのこと。たぶん香港で買ったバセ
ロンとＦ・ミューラーの件だろうが、一度に240万円使っちゃいけねーのかよ。
窓からは波の音とドリアンの匂い。昨日も今日もたぶん明日も、記憶の棒の受け
渡し。ありがとうソニー＆ペリー。
　香港で会ったウィニーという女の子がすでにメールをくれていて、おれももう
返事を書いてあるのに電話回線がなくてなかなか送れず、自分の返事をもう一回
よく読んでみるとスペルの間違いがたくさんあって、自分は書けない英語を普段
いかに多く使っているかを思い知る。まあ日本語だって喋れるけど書けない単語
はいくらでもあるしなあ。おまけにいつもラリってるからやっぱりバイオに最初
から付いてた英和辞書ソフトが便利。だけどダメだね、小説を書くように手紙を
書いちゃ。しかも相手は香港で30分ぐらい話しただけの女の子だもんなあ。し
かしおれ、HallowをHellowって書いてたよ今までずっと。わはははは。

２月某日
　午後１時まで寝て、飯。だらだらと時を過ごし、晩飯はイタリア人二人と近所
の和食屋へ。Ｐの部屋に戻ってくつろぎ、おれの部屋に移動してハーブ。眠剤を
ラムコークで溶かして爆睡。
　昼まで寝て、飯。オフィスからメール送受信と株価チェック。夢の技術はつい
にここ三日間ストップ安を続けている。いわゆる「調整」というやつか。東京の
友人Ａに電話、寒さのせいで風邪をひき、38度の熱を出しているそうだ。こっち
の気温は27度、涼しくて気持ちいい。夜はナイの店でくつろぐ。
　昨日も結局チャウエンには行かなかった。レンタカーもバイクもないおれとし
ては、一人で行くには夜だとタクシーで往復250バーツ。当然誰かのバイクか車
で行ったほうがいいわけで、もう他人まかせの他人まかせのオトコに〜なりたい
〜、なんて歌っちゃう世界ですね。しかしまあきょうはちょっと暑い。飲み物を
買うのに真っ昼間に日向に出たら34度だもんね。雑貨屋のばばあがおれの顔を覚
えてて、英語でいろいろ話し掛けてくれる。おれはそれにタイ語で応える。面白
い世界ですよ、ここは。きょうは土曜日だし、なんだか気持ちが楽だ。波の音を
聴きながら裸で寝ていられる。フルーツの食い過ぎに気をつけるぐらいしか考え
ることがない。バナナがどんどん黄色くなっていく。自分が利口なのか馬鹿なの
かわからなくなってくる。時間が早く経つのか遅く過ぎていくのかもわからない。
やっぱり大ボケ状態だ。夜、ついにＰとバイクでチャウエンへ。イタリアン・レ
ストランでワインとピッツァ、オープンバーでラムコークを二杯、それからオモ
ムロにゴーゴーバーに入る。いったい何日ぶりのことか。ここでウェイトレスを
している友人Ｏが店に入るなり抱きついてくる。カンパリでカンパイ。夜半過ぎ、
バイクで帰る途中にモーラムに吸い込まれる。しかし閉店間際にもかかわらず大
勢の客がいてほとんど相手にされず。なぜかいつもＰと一緒だとモーラムとは相
性が悪い。部屋に戻ってＰと談笑後、爆睡に堕ちる。
　午後３時まで寝てしまう。やや二日酔い気味。カプチーノとフルーツサラダ＆
ヨーグルトで胃を誤魔化し、テラスでのんびり。今日は昨日ほど暑くない。晩飯
はイタリア人二人と隣りでシュニッツェルとタイ風フライドポテト。夜は部屋で
のんびりハーブと音楽、早めに寝る。
　珍しく午前10時半に起きる。朝飯はカオトム、カプチーノ、スイカジュース、
紅茶とたて続けに飲み、その間に水をたっぷり。島では毎日２〜３リットルの水
分が必要だ。オフィスで31通のメールをダウンロード。Ｐはナトンタウンに散髪
に出かけた。快晴、日向気温33度。そろそろ東京の友人Ｋがバンコクに着いてい
る時間かな、と思っているうちに電話あり。夜、二台のバイクに分乗して二人の
イタリア人男、一人のドイツ人女と四人でチャウエンへ。まず屋台でパクパット
とご飯、カフェでエスプレッソ、オープンバーでラムコーク。そこで二人と別れ、
おれとＰはゴーゴーバーへ。帰りにドイツ人Ｍをピックアップしに数年ぶりのレ
ゲエ・パブへ、相変わらずの狂騒ぶり。イタリアン・マッチョのＫが行方不明の
ため、バイク３ケツで帰宅、午前三時。
　午後１時まで寝る。夢の技術はすでに５日連続のストップ安で最高値の半値を
割り込んでいる。きょうは一日中どこへも行かずにだらだら過ごす。晩飯は隣り、
そのままナイの店へ。午前２時まで部屋でのんびり。寝る。
　昼12時10分前に自然に目が覚める。外は快晴、とても気分がいい。朝飯はカプ
チーノとクロワッサン。きょうも昼はのんびりテラスから海を見て過ごす。オフ
ィスからメールをダウンロードしただけ。夢の技術が反騰してやがんの。まった
く笑わせるぜ資本主義。株なんか本気でやる奴あ馬鹿だぜ。一日中何もせず。俳
句が一つできたけど。もはやサムイに来て何日経ったのかもわからなくなりつつ
ある。お茶を飲みにレストランに行くと、旧友のドイツ人Ｏが来ていて、Ｐと三
人でおれの部屋でスモールパーティーwith Gontiti, Otaka Shizuru, Hosono 
Haruomi,and Lee"scratch" Perry. それから一人でテラスでラムコークとリー・
ペリー。It's so goooooooood.
　昼頃起きて飯。海は凪に近い状態で、気温も30度程度。コパンガンがよく見え
る、とても穏やかな日だ。しかしおれは朝からしゃっくりが止まらず、レストラ
ンにいても眠気が襲ってくるばかり。４時からタクシーに乗ってナトンタウンへ。
するとしゃっくりは止まり、カフェでフルーツ・シェイク、市場でもち米ソーセ
ージ、スーパーマーケットでバカルディー・ブリーザー、コーラ、燕の巣エキス、
スルメいか、煙草。部屋に戻ってくるとまたしゃっくりが出はじめ、どうにも止
まらない。日没まで自分の部屋のテラスで過ごし、夕刻ベッドでだらだらしてい
るうちに寝てしまい、気がついたらなんと夜９時を回っていた。あやうく晩飯を
食いそこねるところだぜ。急いで隣りに行って飯を食ったら、止まっていたしゃ
っくりがまた出はじめる。この島のこのあたりでは夜10時を過ぎたらもう外では
飯は食えない。きょうは友人Ｐと、なにやら親しげなドイツ人のおっさん二人と
各５分ぐらいしか話していない。こんな日もあるんだなあと夜11時前に感慨にひ
たるが、問題はこのしつこいしゃっくりだ。ベッドの上で何度かトライしてよう
やく止まり、また出る。
　気がつけば朝、気持ち良い目覚め。レストランに朝飯を食いに行くと、Ｐから
何度となく聞いていた日本人の女の子が来ていて、30分ほど話す。オフィスから
メールをダウンロード。１月10日以来毎日続いていた夢の技術のストップ高、ス
トップ安がきょう初めて止まった。本日のザラ場終値は85万円。さあこれからど
うなるかな。イタリア人の友人ＧとＤも来て、ロビーでだらだらとお喋り。月曜
日のNBAオールスター戦はＧの家で見ることにする。おれの部屋の隣りに泊まっ
ているオバサンが訪ねてきて「あんたはいつまでここに泊まってるの？　できれ
ばこの部屋に移りたいんだけど、いいかしら」と言う。良くない。ここはおれの
部屋だ。一年契約で借りているのだ。おれがいない時は好きに使っていい。しか
しおれがいる時はダメだ。できない。おれが帰るまで待つか？ 一ヶ月先か二ヶ月
先か、わからないぞ。わかったか。「わかりました」。ＯＫ。
　パーティーだのなんだので二日か三日が深い森の緑に抱かれたような日々とし
て瞬く間に過ぎ去り、隣りの客はよく柿を食う。よく鳴る法隆寺の鐘の音は祇園
精舎の響きありやなしや。しかし、とはいうものの、だからといって、来る者は
拒まず去る者は追わず。
　とかなんとかいううちに、きょうも気温33度、海からの風がとても気持ちいい。
テラスで裸でごろごろしていると、ビーチを異人種たちがたびたび往来している
のが見える。直射日光をモロに浴びて、ビーチ上のデッキチェアで二時間も本を
読んでいる理解不能のファランもいる。バンコクのＮから電話、少しだけ長話。
レストランに行くとイタリア人の女の子が６人来ていて、同じイタリア人のＰも
混ざってなにやら盛り上がっている。おれも加わって一時間ほど。晩飯後、一人
でナイの店へ。
　きょうは暑い。日陰でも31度を越えている。眠剤の飲みすぎで身体がだるい。
こういうときはM150に限る、のだが。夕刻、友人Ｋを迎えに空港へ。ロビーでだ
らだらくつろいでから、Ｋを残しておれはＰと一緒にＧの家へ。軽い飯を食わせ
てもらって、７時半からいよいよ年に一度のNBAオールスター戦開始。歌やらな
んやらで試合開始は８時半。結局第１クォーターが一番面白かったかな。バイク
で家に戻り、ナイの店へ。当然のようにＫが飲んでいて、当然のようにかなり酔
っている。明日からのＫの行動を考えると頭が痛い。
　午後３時近くまで寝る。気温27度、きょうは昨日とはうって変わって涼しい。
味噌汁とクロワッサンとカプチーノと水。Ｋと一緒にいるとどうもうっとうしい
ので、オフィスで15分ほど回線を借りて、すぐに部屋に戻る。するとＰがうちの
テラスに来て、昨日Ｋ経由で渡したソニーのP1で撮ったリオのカーニバルのテレ
ビ画面を見せてくれる。当然ダンサーの股間部分が中心だが、ブレまくっていて
何だかわからない。インターネットから落とした白人女のパンチラ写真を嬉しそ
うに見ていたりする大ボケＰの真骨頂。テラスで日記を書いていると、午後５時
前、今回はじめての雨が降りはじめた。東京を出て以来27日ぶりに見る雨だ。
　東京からＹ、バンコクからＮが相次いでサムイに来る。で、数日間の日記は書
けず。
　おれはここで出会った日本人Ａと楽しい日々を過ごし、Ｎ氏はＫとチャウエン
に遊びに行ったりしているうちに時は過ぎ、すべてが記憶の中でぐちゃぐちゃに
なっていく。

２月某日
　ＫとＹを残し、ＡやＰに別れを告げて午後のPG便でＮと共にバンコクに戻る。
常宿のＰは満室で、前々回同様スリウォンのＰホテルにチェックイン。Ｎは前日
に食ったドリアンのせいで体調を崩して病院へ、おれはいきなりタニヤーのクラ
ブ〈Ｓ〉で飲む。体調はタマダーだ。
　来タイしている知人二人を連れて連日のタニヤー通い。もういい加減にしない
とクレジットカードがパンクするぞ。ホテルとカフェとレストランと酒場を行っ
たり来たりしているだけのバンコク暮らし、なんとかならないものか。
　クラブＳのママとパッポンのゴーゴーバーを冷やかす。彼女はもう15年のタニ
ヤー生活だが、パッポンは10年前に客に連れられて来て以来だそうだ。小一時間
で切り上げ、店へ。
　ホテルの支払いと香港便の状況を聞くためにタクシーでいつものツーリストへ。
もろもろの状況を考え合わせ、自分が明日の夜どこで寝ることになるのかさえも
わからない状態に置かれていることに気づく。バンコクかコサムイかチェンマイ
か、はたまた香港かマカオか東京か、可能性としてはそんなところ。
　スリウォンのカフェでＮと会い、うどんとカプチーノ。象牙の小さなダイス三
個をゲット。シーロムのカフェにはしごしてコーヒー。きょうはブッダ・デーの
ため街のどこへ行っても酒は売っていないし、当然の如くファランの人出も少な
い。Ｎと別れてホテルに戻り、熱いシャワーを浴びてから昨夜のうちに買ってお
いたチューハイと焼き鳥。今日の段階では三月上旬に香港に飛ぶ可能性が濃くな
ってきている。
　スクムビットのＮのアパートに行き、インターネットでメールのダウンロード
やら株価のチェックやらであっという間に一時間。Nから電話が入り、近所の居
酒屋でNの友人も含めて四人で晩飯。Ｎは先に帰宅し、おれはタイ人の女の子二
人を連れてソイ26のレゲエ・クラブに行く。一時間ほど飲んで二人をタクシー
に押し込み、一人でスリウォンへ戻って飲む。
　深夜1時、ホテルの部屋のドアから友人Ｎと共に未知の日本人が現れる。聞け
ばＮの知人で、マカオで5000万円の勝負をしに来たと言う。おれはその勝負を
見にこの人を連れてマカオへ行くためにコサムイから予定より早くバンコクに
戻ったのだ。5000万円の一発勝負など、一生に一度見られるかどうかのチャン
スだ。ところが・・。

３月某日
　TG午前便でバンコクから香港へ。チェトラプコックから尖沙咀に直行し、い
つものＹホテルにチェックイン。いつもと違うのは、同行者がＣやＡではなく、
Ｎと、未知の日本人Ｏ氏であることだ。明日に備えて外出は尖沙咀の散歩だけに
して、ホテルに戻って寝る。
　そのＯ氏、なんと日本から資金を用意してきていなかった。どうやら日本でか
なり追いつめられた事情持ちらしい。何かとてつもない事情でもなければ、マカ
オで5000万の勝負をしようなどと考える馬鹿はいないはずだ。それを知っていて、
古谷三敏のマンガに出てきそうな見事に間抜けな顔をしたＯ氏を見物してやろう
というのが今回のおれの目的。わざわざバンコク・アウトの帰国予定を香港アウ
トに変更したのだ。しかしそのＯ氏、持ってきた六枚のクレジットカードのうち
の二枚がすでに買物もキャッシングもできない「死にカード」であることがバン
コクですでに判明している。残り四枚でいったい何香港ドルが作れるのか、おれ
には他人のカードの信用度など知るよしもない。しかし、彼は使用限度額なしの
アメックス・ゴールドを二枚持っている。これをうまく使えば香港でなら1000
万円程度の金は作れるはずだ。
　というわけで、まずは尖沙咀のアメックス香港ブランチでT/C獲得作戦。とこ
ろが彼は英語がまったく喋れない。オフィスのカウンターまで二度往復し、なに
やら書類にサインをしておれたちが待っているカフェに戻ってきた。「英語の喋
れる友人を連れて来い」と言われたらしい。しかたなくＮが同行、なんのことは
ない名前と住所が書けなかっただけだった。小学生か、こいつ。しかし出来たの
は円建てのT/Cでたったの50万円。よほど信用ないね、こいつ。その後HSBC、
恒生銀行、シティバンクと回って100万円をかき集め、トータル150万円。5000
万円の予定がたったの150万円になってしまった、ああ情けない。夕刻、Ｎが
発売されたばかりのモトローラの携帯を買いたいというので三人で物価の安い油
麻地へ。廟街をのんびり歩いてからタクシーでホテルに戻る。晩飯後、Ｎと尖沙
咀のゴーゴーバーへ。ここももう顔馴染み、タイから出稼ぎに来ている女の子た
ちに囲まれ、酒の飲めないＮも得意のタイ語を喋れてすっかりご機嫌の様子。
「明日はがんばってね、あたしたち全員で応援してるからね」というプーイン・
コンタイの嬉しい言葉に送られて店を出る。
　それでもマカオには行きたいと言うＯ氏。おれに彼を止める理由は何もないか
ら、昨日のうちに予約しておいた穴場Wホテルに引っ越した後、九龍のピアから
ターボ・ジェットでマカオへ。タクシーでリスボアに直行してすぐにカジノ入り。
シロートさんと一緒のマカオは日帰りで十分だ。しかし、ここでＯ氏はいきなり
失敗した。生まれて初めてのカジノで、おれが賭けはじめて15分ぐらいは見て
いればいいものを、ルールが飲み込めた時点ですぐさま数千ドルを賭けて四回続
けてハズし、勝負はあっという間に終わってしまった。それでも未練がましくア
メックスの東京ブランチに電話をして限度額の引き上げをしようとする。そんな
こと出国前に済ませておけ、このアホ。しかもその電話のかけ方を知らない。買
った国際電話カードは使えず、マカオパタカのコインは香港ドルと区別がつかず、
アメックスで商品を買ったことにしてキャッシュを作れる質屋には断られ、外の
ATMではピンコードを忘れ、T/Cの交換屋ではビビり倒れる。これじゃあもうマ
カオにいる意味がない。一方おれの方はその間に10回ほどの大小勝負ですでに
HK$15000程度の黒字を出していたから、もういつ帰ってもいい状態。女の子
と上に上がってリラックスしていたＮがもう指定のカフェに来ていて、Ｏ氏は
最後の勝負だと言ってカジノに戻ったきり30分以上も帰って来ない。この30分
で1000万ほどに増やしてくればなかなかの幸運の持ち主で明日の香港も楽しい
が、結局またヤラれて帰ってきた。こうなったら長居は無用、タクシーでピア
に向かいフェリーで香港へ直帰。和食レストラン〈Ｏ〉でＮとお喋りしながら
鰻丼。Ｏ氏は飯も食わずに金目の買い物に走る。おれは明日の競馬に備えて新
聞を買い、自室でＮと喋りながら予想体制に入る。入ったところでまたＯ氏が
登場、じつは競馬は10年前まで5年間ぐらいやっていたと言い出した。さあ大
変・・。
　きょうの競馬はハッピーバレーでナイターの7レース。時間があるからＮとま
ず福臨門で飲茶、場外で馬券を買った後、もう顔馴染みになったオーシャンター
ミナルの時計屋へ。Ｎは機嫌良くカルロ・フェラーラを一本。競馬の方はいきな
り第1レースで288倍馬券的中、しかしその後の全レースの三重彩を惜しいとこ
ろでハズし、結局は回収率約95%の結果に終わる。Ｏ氏は昨夜一晩何を考えた
か知らないが、結局競馬はやらないことになり、ひたすら買物に出かけていた
らしい。
　朝8時、ウェストポーチの中に香港ドルの札束が唸っている状態でＮと共に空
港に向かう。Ｏ氏はホテルのコンセルジュに頼んで取ってもらった香港-大阪直
行便に乗ってすでに帰国したらしい。飛行機のトイレで泣いたんだろうな。空港
内でバンコクに戻るＮと別れ、63番ゲートへ。

　　　　　　　　　　　　　この日記の内容は必ずしも事実とは限りません

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