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CLUB IRREGULARS

Vol.0007★1996年10月10日

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Vol.7
第七回

Spring Storm and Journey of the Heart

春の嵐と心の旅

高杉弾
          春の嵐がまた私の心の中にやってきました。
         最近、私の周囲にもいよいよ本格的なヤキが
         回りはじめており、不況は私たちのようなチ
         ンピラのところに最初に回ってくるものだと、
         しみじみ感じております。もうどこにも、な
         にもありません。部屋から一切外へ出ず、体
         重は四十二キロに減り、血圧は下がり、睡眠
         時間を一日平均十時間とって、この極端な精
         神衰弱状態に耐えているところへ、病院に勤
         める知人から再三再四入院勧誘のお電話があ
         ります。頭は錯乱し、腹は減り、猫は部屋中
         を駆けずり回る狂乱状態の中で「はいはいは
         いはい、そのうち行きますからね頑張ってく
         ださいね」などと生返事をする今日この頃で
         ございます。私にはもう生きている実感など
         どこにもないのです。自分と他人の区別がつ
         かない状態が板に付いてしまい、起きていて
         も夢を見ているような心地でひたすら食べ物
         のことを思い浮かべています。髭は伸び、身
         体中に垢がたまりました。何も考えられず、
         猫と一緒に床で寝たりしています。突然頭が
         重くなり、あまり面白くない駄洒落を思いつ
         いてへらへら笑っています。そうこうしてい
         るうちに部屋代と借金の支払い日が迫り、返
         済できないので高利貸しから借金をすると、
         外はもう夜です。風の音がひゅうひゅう耳に
         突き刺さるように感じ、また自殺衝動が訪れ
         ます。目に見えるものが意味を失ってただの
         形にしか見えず、胃には次第に黒い幕が降り
         はじめて、東京にも春がやってきました。蒲
         団にもぐり込んで震えているうちにいつしか
         眠ってしまい、悪夢にうなされてがっくりと
         疲れ、やがて朝が訪れると低血圧状態で猛烈
         に腹が減っています。ぼんやりとした光の中
         で、私はまだ自分が生きていることを確認し
         ます。なにか食べなくてはいけないと思い、
         冷蔵庫から魚を取り出して鱗を削ぎ落としま
         す。友人からの手紙によると、織田信長はと
         うの昔に失脚しているとのことです。窓の外
         には桜が咲いて、今年も笑いながら歩く人た
         ちの生活が路上の水溜まりに滲み込んでいく
         ようです。旅の心もすっかり忘れてしまった
         頃に、私は故郷の野山を駆けめぐることを思
         い出して涙を流すこともありました。散歩と
         週末の競馬だけが人生の楽しみとなって、社
         会はどんどん私から遠ざかっていきます。嘔
         吐と暴食を繰り返し、鏡の中に悪魔の姿を見
         て、絶望の淵に立つ孤独と真紅に色どられた
         躁鬱を呪う言葉を吐き続けます。鍋ややかん
         は路傍の石にも似て何も語らず、黒い緞帳は
         私の人間芝居を厚く覆い尽くします。猫がに
         ゃんと鳴き、鴉はかあと鳴いて陰欝な夕陽が
         この世を焼きつくし、やがて来る闇の大王の
         囁きに耳を傾けるとき、私は一匹の野獣とな
         ってご飯を食べます。きょうのおかずはさん
         まのかば焼き。昨日よりも不幸の度合いが増
         して、憔悴がにじり寄るように私に微笑みか
         けている。自殺すらできない不幸な私。私は
         もうとうの昔に死んでいるのかも知れない。
         病院は暗黒の遊園地、そして社会は明るい墓
         場のように感じられます。春はまぼろし、淡
         い光の中を大勢の亡者が笑いながら走って行
         く。硝子のように透き通った蛇がにやにや笑
         いながら私にすり寄ってきて、「お前ももう
         おしまいだね」と囁きます。水道管の中を這
         いずりながら前に進む私。ああバナナが食べ
         たい。鳥の蒸し焼きも食べたい。病院では大
         勢の上海の老人が壷に入った紫の液体を柄杓
         ですくって水浴びをしています。私にはわか
         らない中国語で、しきりに呪いの言葉を呟き
         ながら。ああ蕨餅が食べたい。葛切りでもい
         い。そして突然の頭痛。私は床に伏せって暗
         黒の宇宙を想い、大理石の思念にすべてを集
         中しました。猫が五万匹死んでいます。人間
         も八人死んでいます。空からはもう九十日間
         も針の雨が降り注ぎ、地面は血の海となって
         どろどろに覆いつくされました。神も仏もあ
         るものか。この世の地獄を思い知れ。お前な
         んか人間じゃない。二度と生まれてくるな。
         八百年間いじめてやる。目が醒めると妻が台
         所で野菜を刻んでいました。妻は悪魔の化身
         でした。私を監視するために悪魔が使わした
         化け物でした。気圧が下がり、脳が圧迫され、
         やがて雨が降りはじめました。借金の支払い
         が迫り、食べ物はなく、猫は鳴き叫び、激し
         い絶望と吐き気が私を襲います。関節が痛み、
         頭は混乱し、咽喉は乾き、どんよりと垂れこ
         める雲が私の精神を錯乱するのです。春の嵐
         は、まだ私の心の中から出て行こうとはしま
         せん。


--この文章は月刊『ガロ』(青林堂)1992年6月号に掲載されたものです--
(c)東陽片岡

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