季刊「BURST HIGH」誌(コアマガジン社)で連載 OUT OF HIGH TIMES ★Vol.03★

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第三回 Vol.03
神と夢の通り道。ぼくの現実はまるで熱に うなされたように遠くへ遠くへと近づいていく。 高杉弾 Takasugi Dan

             数年ぶりに風邪を引いて、高熱が出た。もともと熱には強             い方で、昔、42度の高熱を出しながら自分で買い物に行き、             料理をして飯を食ったことがある。それでも風邪は治らず、             しかたなく医者に行った。「42度も熱を出して平気で外を             歩ける人はあまりいないよ」と医者に言われたが、嬉しくも             なんともなかった。それがどうした、という気分だ。              ぼくには持病がいくつかある。脳味噌には生まれつき穴が             あいていて、くも膜下嚢胞という、さほど珍しくはない畸形             らしい。身体の断面をスライスして見るCTスキャンという             機械が発明されるまでは発見できなかった畸形らしく、この             症状を持つ人は、たいてい生まれてすぐに死んでしまうか、             テンカンを起こしやすいという。ぼくのくも膜下嚢胞を発見             した脳外科医は、ぼくに「子供の頃、死んだことある?」と             聞いた。診察が終わり、診察室を出ていこうとするぼくに背             後から「プロボクサーにはなれないよ」とも言った。               11年前のちょうど今頃、突然結核になって入院したこと             がある。結核は法定伝染病だから、もちろん外部とは接触で             きない隔離入院だ。中野の丘の上にある不気味な国立療養所             だった。              毎週検査をして、菌が出ている限り退院はできないし、病             院の敷地から外に出ることもできない。ぼくと同室のおじい             さんは、もう30年も入院していると言っていた。外部との             接点はテレビの画面だけである。              ぼくは薬ですぐに治ってしまい、毎週週末になると外出で             きない他の患者さんたちの分も含め、後楽園の場外馬券売場             に馬券を買いに行っていた。              入院患者には様々な職業の人がいた。タクシーの運転手、             大工、左官屋、設計技師、板前、売れない俳優、作詞家・・・。             なぜか、自由業とか自営業と呼ばれる人達が多かった。定期             的に健康診断のあるサラリーマンは、結核などにはならない             のだろうと、ぼくは勝手に決めていた。              夜9時の巡回が終わると、仲良くなった入院患者数人とこ             っそり病院を抜け出し、中野駅前の屋台へお酒を飲みに行っ             た。12時の巡回までにベッドに戻っていれば大丈夫だった。              個室に入院している板前の患者に呼ばれ、看護婦の目を盗             んで鰻をご馳走になったこともあった。もちろん日本酒付き             だった。「夏になったらさ、ウチの店においでよ。ハモを食             べさせるからさ」と彼はにこにこしながら言った。それから             二週間ほどして、彼は死んだ。              タバコは屋上の喫煙所で食後の30分だけ。新宿でチンピ             ラをしているヤクザ者の患者のところへ見舞いに来た女の人             が、いきなりフェラチオをはじめたのには目を見張った。ヤ             クザになるとこういうことをしてもらえるのかと、本気で羨             ましかった。              間もなく病院の庭にも桜が咲き乱れ、ぼくは退院した。結             核病棟。そこには夢のような時間と、熱にうなされたような             現実が静かに流れていた。              糖尿病は遺伝によるものが多いと言われているが、多分ぼ             くも遺伝による糖尿だと思う。母方の姉妹の何人かが糖尿だ             から、おそらくぼくの曽祖母か曽祖父の世代にも糖尿がいた             はずだ。しかし、ぼくの母親や父親も含め、兄弟の中で糖尿             はぼくだけ、というのがなんとも不公平に感じる。ぼくの前             で平気で甘い物を食べたり、酒を飲んでいる親兄弟を見てい             ると、とてもワリを食った感じがする。              医者は「何を食べてもいいんですよ。天ぷらだって、コロ             モをはずして食べればいいんですよ」などと平気で言う。              病気というのは予定が立てられないもので、いつ風邪を引             くかもわからないし、いつ結核になるかも予測できない。ど             んなに仕事が忙しかろうと、どんなに予定が立て込んでいよ             うと、病気は突然やってくる。まるで白日夢のように。              おまけに、病気はヒマな人間にも忙しい人間にも平等に降             り注ぐものらしい。善人にも悪人にも平等に、しかも無差別             に。              病気で寝ている時間というのは、いわば無駄な時間だけれ             ど、それは元気で忙しいときに思うことで、ぼくのようにも             ともと病弱で、しかもヒマな人間にとっては、病気で寝てい             る時間や病院に入院している時間は、普段とは違う脳味噌を             活用するチャンスのようなものである。              熱があると、変な夢を見る。病気であること自体が妙な夢             を見ているようなものだから、日常的に病気のぼくは、いわ             ば常に白日夢を見ているようなものだ。              ぼくの家の寝室には飾り気がない。窓にはカーテンが付け             てあるが、壁には何も飾られていない。唯一、ベッドの頭上             にマイケル・ジョーダンが両手を広げているモノクロのポス             ターが一枚。それだけ。なぜマイケル・ジョーダンなのかは             よくわからないが、いまの家に引っ越してきたときに、寝室             にはやっぱりゴッドだよね、とか言いながら、これを飾った。             そして、ベッドに寝ているぼくの手元には、急に具合が悪く             なったときに看護婦さんを呼ぶためのブザーのボタン。小さ             な机の上には、気圧が九八○ヘクトパスカルを切るとベルが             鳴り響く金属製の気圧計が置いてある。              ジョーダンのポスターの正面には地下に降りていく階段が             あり、夜12時の巡回が終わって看護婦さんが廊下を去って             いく足音を聞きながら、ぼくは静かに階段を下りる。              何年ぶりの上海だろうか。この古い木造の建物には、いつ             来ても独特の臭いが染み込んでいる。乾燥した魚、散髪屋の             石鹸、写真の現像液、ラーメンの汁、床のワックス、旋盤の             潤滑油、熟れたドリアン、焼き鳥のタレ、そして何故か、鮮             烈な蓮の花の臭い・・・。              階段を下って建物の玄関を入ると、いつもの見慣れた風景             と臭いがぼくを迎えてくれる。迎えてくれるといっても、そ             こにいる誰もがぼくが来たことに気づいてはいない。一階の             土間一面に根を生やしたように居着いている人々。乾物屋、             散髪屋、写真屋、ラーメン屋、旋盤工、果物屋、焼き鳥屋・・・、             みんないつもと何の変わりもなく、もくもくと自分の日常を             やり過ごしているだけ。その証拠に、壁に掛けられた時計の             振り子は、怖ろしいほど正確に時を刻んでいる、ように見え             る。              ぼくは自分の部屋に戻るために階段を昇る。もちろん、さ             っき降りて来たのとは別の階段。ここは、ぼくが学生時代に             住んでいたアパート。二階の一番奥がぼくの部屋だ。たしか             四畳半。家賃は九千八百円だ。鍵を鍵穴に差し込み、ぐるり             と回してドアを開く。              きょうの担当は初めて見る中国人、いや、ひょっとしてベ             トナム人だろうか。タイ人かも知れない。とにかく女の子だ。             看護婦さんのような白い服を着てはいるが、彼女は看護婦さ             んではない。それぐらいはぼくにも見分けがつく。看護婦さ             んとは明らかに雰囲気が違う。カルテも持っていないし、頭             に変な布も付けていないじゃないか。彼女は昨日雇われたば             かりのマッサージ師だ。まだ仕事に慣れていないというだけ。             だとすれば、仕事に慣れる前に早く手をつけておかなくては。              そうだ。ぼくは糖尿病の合併症で、もう10年以上も前か             ら足が痺れている。冬でも靴さえ履けないのだ。自分に必要             なのは週一回、若いアジア人の女の子に足をマッサージして             もらうことだ。ついでに、溜まった精液を吸い取ってくれれ             ばもっといい。中国語で「溜まった精液を吸い取ってくださ             い」というのは何と言えばいいのだろうか。辞書を持ってく             るのを忘れたことを、ぼくはじわじわと後悔しはじめている。             「月20万円でどうですか?」              思わず関係ないことを言ってしまった。頭の中に「週一回」             とか「20万円なら」とか「溜まった精液」とか「全身を」と             か「夢のような」とか、いろんな言葉がぐるぐる回っている。             きっと熱があるのだ。風邪で熱が出ているのだ。             「全身が固いですね」              マッサージ師はいつの間にか男の人になっていて、ぼくの             太股を裏側から揉みながらそう言った。そうか全身が固いの             か。それにしても、このマッサージ師はいったいどんな顔を             しているのだろう。              無駄な時間と無駄な夢。どうせ使い道のない無駄なものな             ら、銀行にでも預けておけば良かった。いや、もう銀行など             信用してはいけないのだ。もう、そういう時代ではない。で             は、投資信託とかヘッジファンドとか、石油の先物はどうだ             ろうか。そもそも、この円高の時代に、ぼくは一日平均10             時間も寝ている。ひどいときには16時間寝ることもある。             しかも10時間寝て起きるのはたいてい夕方の4時か5時で             あり、近所のドトールコーヒーに行ってコーヒーを飲んでい             ると日が暮れてしまう。毎日ドトールに来てはいけないとい             う法律があるわけではないが、毎日10時間も寝て、毎日ド             トールへコーヒーを飲みに行って、そのまままっすぐ家に帰             り、飯を食ってまるで病人のようにまた10時間寝る。そし             てまた翌日もドトール、その翌日もまたドトール。ドトール             でコーヒーを飲むために生きている病人。              やっぱり全身が固くなっているのですね、なんとなくそん             な気がしていたのです。

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